不動産登記の概要

不動産登記制度の背景

わが国は、自由主義社会に属しているといわれます。それではその自由主義社会の特徴は一体なんでしょうか?一面では私有財産制を認めた社会であります。不動産登記は、土地や建物の私的権利関係を公示するという側面から、いわば私有財産制の一翼を担う制度といえます。

 

この私有財産制の制度は、民法上の物権という概念にも現れています。物権とはひとことでいえば物に対する直接排他的な支配権のことであり、他人や国といった機関を通さずして、誰に対しても主張できる権利といえます。

 

そのため、どの不動産が・誰の・どのような権利 に属しているのか、明らかにしなければなりません。そこで、国による不動産に対する物権の「公示」を行う制度として、不動産登記制度が存在するのです。

 

不動産登記を行う事は、義務なのか?

結論から言えば、表示に関する不動産登記は義務ですが権利に関する不動産登記を行う事は義務ではありません。

 

不動産登記には大きく分けて表示の登記と権利の登記があります。

 

表示の登記とは@建物を新築した場合やA土地の形態をを「畑」から「宅地」に変更した場合やB建物を取り壊した場合などのように、不動産そのものに何がしかの変更が生じた場合に行うもので、土地家屋調査士という国家資格者が現況確認や土地建物の測量を行い、不動産その物のデータを登記するものです。この不動産の表示の登記は義務とされており、怠ると「過料」という罰金の一種が科せられることがあります。

 

これに対して、権利の登記とは登記簿に表示された不動産の所有権を有している人が誰なのか?、とか、その土地を借りている人は誰なのか?、その不動産に担保権(抵当権など)を有している人はだれなのか? と言うように、登記簿に表示された不動産が「誰の」「どのような権利」に属しているのかを登記するもので、決して義務ではありません。

 

相続登記の場合には、相続開始後何十年もたってから初めて登記を行うことも少なくありません。不動産仲介業者を介して行う不動産売買や銀行で行う抵当権の設定の場合には、それぞれの法律的・専門的立場や社会的信用の面から、不動産登記を行いますが、個人間での売買や抵当権の設定の場合は、不動産登記を行わないことも少なくありません。

 

つまり、権利に関する不動産登記は義務ではないばかりか、売買による所有権の移転や抵当権設定などの物権変動の効力発生要件でもないわけです。

 

それでは、権利に関する不動産登記を行わないと何か不利益があるのでしょうか?民法第177条では「不動産ニ関スル物権ノ得喪及ヒ変更ハ登記法ノ定ムル所ニ従ヒ其登記ヲ為スニ非ザレバ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス」と規定しています。この事は、登記は対抗要件であることを示しています。

 

ここまできて、眠くなってしまったあなた、これからが本題ですので、もう少し我慢してください。

 

「登記は対抗要件である。」という言葉は、市民にはあまりなじみのないものなので、具体例を挙げて説明してみたいと思います。

 

Aさんは、甲土地を所有していました。

Aさんは、平成16年1月1日にBさんに、甲土地を1000万円で売ることにして、AさんとBさんで契約書を作成しました。

Aさんは、平成16年1月2日にCさんに、甲土地を1500万円でうることにして、AさんとCさんは、口約束を結びました。

平成16年1月3日に、AさんからCさんに、甲土地の所有権を移転したという不動産登記申請がなされました。

 

このようなケースの場合、甲土地の所有者は一体誰になるのでしょうか?民法では、売買契約によって、甲土地の所有権は即座にBさんに移転しているはずです。AさんとCさんの売買契約は、民法では他人物売買として認められていますが、Aさんは既に甲土地の所有権を有していないため、Cさんは売買契約によって即座に所有権を取得しているわけではありません。

 

このケースを「二重譲渡」といい、BさんとCさんの関係を「対抗関係」といいます。この対抗関係においては、先の民法第177条の条文が生きてきて、先に登記を行った者がその権利を対抗できるということになります。つまり、BさんはCさんに甲土地の所有権を対抗できないということで、仮に裁判をCさんに起こしても、負けてしまうということになります。

 

権利に関する不動産登記は義務ではないというものの、登記を行わないと、その不利益が非常に大きなものになりかねないということをご理解いただけたでしょうか?

 

どんなときに権利に関する不動産登記を行うのか?

市民に関係の深い不動産登記の代表例を挙げておきますので、該当すると思われる場合には、早めに不動産登記を行うか、司法書士にご相談ください。また、これ以外にも不動産登記が可能な場合もございますので、その場合も司法書士にご相談ください。

(1)不動産を買ったとき

     土地や建物を購入した場合に、売買による所有権移転登記を行います。

  (2)相続が開始した場合

     相続財産に土地や建物がある場合、相続による所有権移転登記を行います。

  (3)不動産の贈与を受けたとき

     土地や建物の贈与(生前贈与・遺贈)を受けたとき、贈与による所有権移転登記を行います。

  (4)建物を建てたとき

     建物を新築した場合、建物の保存登記を行います。

  (5)お金を貸したとき

     お金を貸したとき(金銭消費貸借契約)に、そのお金の返済の担保として、抵当権設定契約を行うことがありますが、その場合抵当権設定登記を行ないます。

  (6)お金を返したとき

     住宅ローンなどの完済により、そのローンの担保である抵当権も消滅します。その場合、抵当権抹消登記をおこないます。

  (7)土地を借りたとき

     借地をして、建物を建てることもありますが、その借地には、地上権と賃借権の二通りがあります。その場合、地上権・賃借権設定登記をおこなうことができます。

  (8)不動産に関して裁判を行うとき

     不動産の権利関係について争いがあるため、裁判を行う場合、処分禁止の仮処分という登記を行うことができます。この登記は、市民が直接行うのではなく、市民の申立てに基づいて、裁判所が行います。また、金銭債権の回収のための強制執行の一環として、差押や仮差押、仮処分の登記を行うことも同様に、裁判所が市民の申立てに基づいて行います。

 



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