新不動産登記法施行後の実務注意点

新不動産登記法の概要につきましては、日本司法書士会連合会平成16年12月15日作成版新不動産登記法の改正の重要点PDFをご覧ください。

 

 

登記申請方法の選択

登記申請方法が複数化することで、便利になった? と思われる反面、登記申請を選択しなければなりません。それぞれの登記申請方法のメリット・デメリットを以下にあげます。その上でご判断いただくことが重要です。

 オンライン申請

メリット

@遠隔地においても法務局に出頭することなく登記申請が可能

A法務局開庁時間に関わらず、登記申請情報を送信可能(受付は翌開庁日の開庁時間と同時

B一定の電子署名(住基ネットのIC電子署名・商業登記代表者電子署名)を使用すると、住民票や法人資格証明書データの送信が不要

C環境が整っていれば、もっとも迅速に登記申請を行うことが可能で、他の登記に先んじることができる。

D登録免許税の納付は、ネットバンキングの利用が可能。

デメリット

@登記申請に関するすべての情報を電子データで用意しなければならない。(紙による情報を後から郵送する方法は認められていない。)

A登記権利者・義務者双方の電子署名が必要(住基ネットのIC電子署名カード・商業登記代表者電子署名カードなど)(書面申請の権利者は印鑑証明書不要)。

Bコンピュータ・インターネット環境の整備が必要(銀行などの引渡・決済現場で環境を整えられるか?)

Cインターネット技術上の問題から、登記申請情報が確実に送信できるかどうか?

D登記識別情報はインターネットでの受信が必要。

Eオンライン指定庁でないと、申請できない。

 

 書面窓口申請

メリット

@書面で申請するので、分かりやすく、これまでの引渡・決済に準じた実務が可能。

A登記権利者の印鑑証明書が不要

B登記申請・受付が確実で、確認が容易。(法務局までの事故などの発生とインターネット上の事故とどちらが危険か?)

デメリット

@登記申請は法務局開庁時間内に限られる。

A法務局まで行かなければならない。(登記申請時と登記識別情報受領時の2回

B朝一番の登記申請でも、オンライン申請が先んじることがある。

 

 郵送書面申請

メリット

@登記申請時法務局に行かなくてもいい。

A法務局の開庁時間に囚われない。

B書面作成なので、分かりやすい。

デメリット

@郵便事故による不利益は申請人が負担。

A郵送による時間の経過中に他の登記申請受付を許すことがある。

B受付順位・登記順位確保において、他の方法に劣る。(複数の登記申請が到達前後不明の場合、同順位受付がなされるか、並存できない場合双方却下される。)

C登記識別情報の受領は、窓口に行かなければならない。(現在の規則案)

 

 

既存の登記済権利証

@現在有効な登記済証(登記済権利証)は、新法施行後も使用するのが原則です。間違っても破棄しないでください。

Aオンライン未指定庁においては、登記済証が発行されます。(ただし、登記済証となる素材を提供した場合)

Bオンライン申請を行う場合、有効な登記済証があっても、新たな本人確認が必要です。(オンライン申請は、電子データの送信に限られるため、紙である登記済証を使用することができません。

Cオンライン指定庁になった場合も、最初に行う権利に関する登記を書面で申請する場合、登記済証を添付します。(登記完了後は、新たに登記識別情報が通知されます。)

 

 

未指定庁登記済証と登記原因証明情報

オンライン未指定庁では、移行期の登記済証として旧法と同様に発行されますが、原因証書と申請書副本が廃止されるため、登記済証の元になる素材(紙情報)の法務局への提供が必要です。規則案では、素材未提供の場合は登記済証不発行の申立と同様に取り扱われるため、添付忘れに注意が必要です。

素材としては、申請情報(申請書)・登記原因証明情報と、同一内容を記載した書面が予定されていますが、具体的には以下の物が考えられます。

 

@売買所有権移転の場合、申請情報の写しまたは登記原因証明情報の写し(登記原因証明情報の方が、記載内容の豊富さから、依頼者にとって好ましいものと思われる。)

A抵当権設定の場合、抵当権設定契約書を登記原因証明情報として法務局に提供し、原本還付の手続きをとり、抵当権設定契約書原本に登記済の処理を行ってもらう。(抵当権設定契約書原本を、単純に登記原因証明情報として提出すると、法務局から帰ってこなくなるので、注意が必要です。

 

 

原本還付

@所有権名義人の提出する印鑑証明書および、登記識別情報(登記済証)を提供できない場合の登記義務者(抵当権者等)の印鑑証明書は原本還付ができません。印鑑証明書が登記申請以外に必要な場合は、必要ごとに準備してください。

例えば、1通の印鑑証明書を法務局で原本還付し、銀行で契約書類とあわせて保管することがありましたが、新法施行後はできなくなります。また、数箇所の法務局に印鑑証明書を提出する場合も、法務局の数だけ印鑑証明書が必要になります。

A原本還付の時期を登記完了後とする規則案は修正され、「登記官による調査完了後」に改められましたが、窓口即時還付は不可能になる見込みです。

B法務局に提出するためのみに作成された書面(いわゆる「のみ書面」)は還付ができません。具体的には「委任状」「登記原因証明情報(法務局あてに作成したもの)」「本人確認情報」など。

C「委任状」に複数の管轄法務局にまたがる不動産の抵当権設定登記申請を委任した場合、最後に登記する法務局で、還付されなくなります。

 

 

受領証

@受領証は、登記が完了するまでの間であれば交付申請を行うことが可能になり、旧法より取扱が広がった。

A登記済証交付の際に受領証を返還しなくてもよい制度に変更予定(規則案)。

 

 

登記識別情報

 登記識別情報は、12桁の英数字によるIDパスワードです。旧法の登記済証と同じ役割を担うもので、取扱に注意が必要です。

業務上の取扱

@業務上他人の登記識別情報に触れる機会のある方は、なるべくIDパスワードを見ないように心がけてください。IDパスワードなので、盗み見るだけで、使用可能な情報です。登記識別情報を印刷した紙や、登記識別情報を収納したフロッピーディスクは、封筒に入れて封印を行って頂いてから預かるなどの工夫が必要です。

 

A登記識別情報は、IDパスワードがその本質なので、旧法の登記済証のように、唯一性がありません

封をした登記識別情報を預かっても、番号さえ知っていれば、登記申請が可能です。例えば、つなぎ融資の場合、登記留保を行う目的で登記済証を預かるケースがありましたが、登記識別情報になると、以上の理由から実務上再考が必要です。

 

 通知を受けるかどうか?

登記識別情報は、IDパスワードなので、盗み見ることで、登記済証盗難と同様の効果があります。また、パスワードを忘れてしまうということも多発します。そのため、@通知を受ける A通知を受けない B通知を受けた後失効させる の3通りの方法があります。

登記済証という紙媒体でないがゆえの宿命ですが、権利者にどのように説明するか問題です。ABを選んだ場合、次の登記申請の場合に、特別な手続が必要であることも説明しなければなりません。