商業登記の概要(会社設立のメリット)

商業登記の話をする前に、まず民法の話をさせてください。「おいおい、商業登記や会社のことなのに、民法からとは、ずいぶん回りくどいな」なんて言わないでください。

 

民法では、第1章に「人」に関する規定を設けて、第1条の3に「私権ノ享有ハ出生ニ始マル」としています。これは言い換えれば、我々人間が、権利義務の主体となるべき地位を有していることを規定しているのです。つまり、「人」でなければ、物の所有権を取得したり、契約したりすることができない旨の規定であると言い換えることができます。この「人」のことを自然人ともいいます。

 

さらに民法では、第2章において、「法人」を規定し、第43条において、「法人ハ法令ノ規定ニ従ヒ定款又ハ寄付行為ニ因リテ定マリタル目的ノ範囲内ニ於テ権利ヲ有シ義務ヲ負フ」として、一定の人の集合体や、財産の集合体についても、人格(法人格)を認めています。

 

商業登記は義務か?

商業登記は商法を受けて、その公示すべき内容を登記簿に記載するための法律です。端的に言えば、個人商人に関する登記は義務ではなく、会社に関する登記は義務です

 

個人商人に関する登記は、基本的には「商号」や「支配人」の登記であって、権利義務の主体はあくまで自然人たる商店主です。そのため、自然人については、お店の名前やその使用人である支配人を登記することができる、としたのです。

 

会社に関する登記は、会社そのものの内容であり、その登記を行うことで会社が成立する(法人格を取得する)ことになります。よって、そもそも登記をしていない会社は存在しないのです。この会社設立の登記を行うことで、会社の法人格が認められ、その登記簿の記載内容によって、その会社と取引を行おうとする者にとって、安全な取引を行うための資料とすることができるのです。

 

言うまでもなく会社にするということは、事業を大きくして、その事業の永続性を図ろうとするものです。そのことは、不特定多数の相手と取引を行う可能性があるため、その安全を図る理由で、会社の変更登記は義務とされているのです。

 

このことは、商法第67条に変更登記に関して「登記ヲ為スコトヲ要ス」という規定に現れ、さらに、登記が遅れた場合の罰則規定が設けられている理由でもあります。

 

具体例を挙げると、

会社の設立年月日は、登記を行った日であり、それ以前の権利義務関係は、会社発起人たる自然人が基本的に負います。

役員変更登記を怠ると、登記懈怠として、裁判所から過料(刑事罰としての金銭の支払命令)の通知がくることがあります。

 

会社設立のメリット

(1)対外的信用

     個人事業の小規模イメージに対して、登記簿による社会的信用が得られやすく、金融機関からの借入や公共工事の入札、大企業との取引、従業員の募集などにおいて、個人商店より有利である。

  (2)有限責任

     株式会社や有限会社においては、株主や社員といった出資者は、会社の負担した債務について、出資金の範囲内に於いて責任を負うのみで、個人事業主のように、個人が全責任を負うのとは異なる。

  (3)事業資金

     個人事業の場合、事業資金は借金がほとんどであるが、会社の場合は事業の賛同者による出資金として、事業資金を集めることが可能である。このことは、より大きな事業展開を行う上で非常に有利となる。

  (4)優秀な人材

     社会保険の完備など、優秀な人材を集めるための環境整備が可能である。

  (5)決算期

     個人事業は12月31日のみが決算期であるのに対して、会社は業種や事業内容にあった決算期を自ら決定することができる。

  (6)事業の存続

     個人事業は、商店主の死亡により、一旦終了する。このため、子供などが事業を引き継いでも、社会的信用を構築しなおさなければならないが、会社では、個人の死亡は会社の存続そのものには直接影響もなく、社内外の信用保持や事業の継続が途切れることなく可能である。

  (7)税法上

     会社では、必要経費にできる範囲が広く、家族を役員や従業員として扱っても、役員報酬や給与として必要経費にできる。

 

このように、会社にすることで様々なメリットを受けることが可能です。

 



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