訴えをおこしたい!どうするの?(民事訴訟手続)

 

世の中にはいろんな理由で「訴えてやる!」というような場面があります。では、訴えてやるにはどうすればいいのでしょうか?このページでは民事訴訟の訴えの提起を解説します。

 

裁判所では裁判手続については、いろいろと親切に教えてくれますが、裁判所は原告と被告のどちらか一方の肩を持つような姿勢を行うわけにはいかず、裁判所はあくまで中立です。裁判手続や準備そのものは、当事者の責任で行わなければならないのです。そのため、十分な準備がないと思わぬ敗訴を喫することがあります。

 

よく「調べてもらえばはっきりするんだ!」と言う声も耳にしますが、裁判所が調べるのは当事者が提出した言い分のうち、双方の主張が食い違う点について、当事者が提出した資料(証拠)のみなので、いかに真実であると当事者が主張しても、当事者が提出した証拠でその真実が証明されない限り、裁判所は真実として認定することができません。これを「弁論主義」「立証責任」などということがあります。

 

また、裁判上の提出書面を作成するには、幅広い法知識を要求されるため、一般の方には非常に多くの困難を伴います。この点について、簡易裁判所では 少額訴訟を代表とした、様々な簡易な手続が用意されています。

 

訴えを起こす前に

 裁判を行う決心をしたあなたが、まず最初に行わなければならないのは

 

(1) 誰が・誰に・何の請求を・何の原因で 行うのか。

例@ 交通事故の損害賠償なら、「私が・加害者に・自動車の破損修理費用を・何年何月何日、○○交差点で発生した交通事故を原因として」となります。

例A 商品代金の請求なら、「私が・買主に・商品代金を・何年何月何日締結(販売年月日)の売買契約に基づいて」となります。

 

 

後に述べる給付の訴えで、よく問題になるのは、何を請求したらいいのか分からない!という点です。裁判は、当事者が請求した内容のみしか、判決を行ってはならないという、処分権主義と言う考え方があります。そのため、裁判所では、本人が行おうとする請求についての手続は教えられるものの、「他にこのような請求ができます。」というような積極的な介入を行うことができません。この点について、不安な方は弁護士や司法書士などの法律専門家を活用すべきです。

 

(2)「何の原因で」 について、証拠があるのかないのか?

例@ 警察署発行の事故証明書、自動車の修理見積書・修理代金の領収書、目撃者の証言、目撃者の陳述書、あなた自身による証人(当事者尋問)

例A 売買契約書・納品書・請求書・業務日誌・代金支払催告の内容証明郵便・あなた自身による証人(当事者尋問)

 

(3) 相手方の言い分は、どの様なものか?

例@ 相手方が一方的に悪いのではなく、あなた自身にも落ち度があったはずだ!

あなたの提示した修理金額は、世間的にみて妥当な金額でない!

例A 買った商品に欠陥があった

   まだ商品を受け取っていない

 

(4) 話し合いの余地はもう無いのか?

もし話し合いの余地が多少でもあるなら、裁判以外に調停や裁判前の和解の制度もあります。裁判は行う以上、勝訴・敗訴の判決という、結果がでてしまいます。一度判決が確定すると、同じ請求を裁判で再度行う事は原則として許されません。

 

 などを確認してください。なかには、ご本人にはその確認が難しい場合もありますが、その場合は、遠慮なくご相談ください

 

訴えの種類

わが国では、訴えの種類を以下の3つに分けています。

1 給付の訴え

  「金を返せ」「代金を支払え」「損害を賠償しろ」「商品をわたせ」など、他人に何らかの行為(又は、行わないことを)を求める訴訟で、民事訴訟上最も多い訴えの種類です。

2 確認の訴え

  「借金は100万円を超えて存在しない」や「所有権を確認する」など、特定の権利または法律関係の存在又は不存在の主張をいう。単に確認を行うと、世の中確認を行いえるものが多すぎるため、確認の利益がない場合は、訴えを提起することができない。確認の利益とは、例えば借金を150万円請求されている場合に、その借金が100万円を超えて存在しないことを確認するなど、争いごとの前提として、確認を行うことが必要な場合をいいます。

3 形成の訴え

  「原告と被告は離婚する。」など、法律上一定の事由に基づいて裁判所の判決によって、特定の法律関係の発生、消滅、変更させることを求める訴えです。

 

管轄裁判所の確認

訴えをどの裁判所に提起するのか、非常に重要です。民事訴訟法第4条では、被告の住所地を管轄する裁判所を管轄としますが、これでは遠方の被告に対して訴えを提起する場合、時間的・物理的に不都合が生じます。そこで、民事訴訟法第5条で、例えば財産上の訴えに関してはその義務履行地の管轄裁判所に提起が可能としています。これは、通信販売の売主が買主に代金の請求訴訟を行う場合、4条では買主住所地の裁判所、5条では売主の住所地の裁判所に訴えを提起することができ、売買契約書に管轄裁判所の合意がある場合には、その合意裁判所に訴えを提起することができます。

また、契約書作成時などに、あらかじめ裁判所の合意を行っておく合意管轄もあります。

土地に関する管轄以外に、裁判で求める金額による管轄があります。140万円を境に以下を簡易裁判所、超過すれば地方裁判所に管轄が生じます。

訴状の記載

訴えを提起するには、管轄裁判所に「訴状」を提出する必要があります。簡易裁判所では口頭で訴えを提起することも可能ですが、基本的には訴状という書面が必要です。

訴状には

@当事者の記載   誰(原告)が誰(被告)に対して訴えを起こすのか?

A請求の趣旨    何を求めるのか?

B請求の原因    Aの請求は何に基づいて発生しているのか?

を記載する必要があります。売買代金の支払いを求める場合、具体的には

 

@原告・被告の住所氏名

A被告は原告に100万円支払え

B**年**月**日原告と被告は、A商品を代金100万円で売買契約を締結した。

 

といった具合です。 この訴状に印紙を貼り、訴状を送るための郵便切手を裁判所に納付すると、訴状が裁判所から被告に対して送達(郵送)され、裁判が開始します。印紙や郵便切手は、裁判の内容や被告の人数などによって、多少異なることがあります。裁判所で教えてもらえますが、参考までに下記に訴額と印紙の計算方法を挙げておきます。

 

 

訴訟の目的の価額(以下訴額という)

申立の手数料(印紙代)

100万円までの部分

10万円までごとに1000円

100万円を超え500万円までの部分

20万円までごとに1000円

500万円を超え1000万円までの部分

50万円までごとに2000円

1000万円を超え10億円までの部分

100万円までごとに3000円

0億円を超え50億円までの部分

500万円までごとに1万円

50億円を超える部分

1000万円までごとに1万円

注意する点は印紙代の「までごとに」という言葉です。

つまり415万円の訴額であれば、100万円部分について、10×1000円=1万円 と 残り315万円部分については320万円までと同視されるので、16×1000円=1万6千円 の合計2万6千円の印紙が必要となります。

 

証拠の収集および提出

訴状で「誰が」「誰に」「何を」「何に基づいて」請求するのか記載しますが、いくら請求を行ったところで、相手方が認めずに争えば、その請求が真実正当であることを裁判所に認定してもらわなければなりません。その認定の資料が「証拠」と言われるものです。手持ちの証拠資料は、訴状に記載し、書証ならそのコピーを裁判所に提出します。

裁判所に証拠を提出するのも当事者の責任です。裁判所は積極的に証拠収集を行う事はありません。当事者が提出した証拠のみでしか、判断を行うことができないのです。証拠が不十分で、裁判官に「真実そのような事実が存在した」と認定されない結果、当事者が受ける不利益を、立証責任とも言います。

「調べてもらえば分かるはずだ」との言い分は、当事者が提出した証拠に限られる、ということにご注意ください。

また、裁判所は当事者の提出した証拠を公平に判断する結果、提出した者にとって、有利・不利のいずれにも判断することができます。これを証拠共通の原則といいます。いいかえれば、あなたが有利だと思う証拠でも、法律・裁判上必ずしも有利となる証拠のみではないということです。

証拠には大きく分けて、書証・人証・鑑定・検証がありますが、一般的なのは書証と認証です。

 

書証とは、文書に記載された意味内容を証拠資料とするもので、売買契約が成立したことを証明するための売買契約書や、お金を支払ったことを証明するための領収書がこれにあたります。

人証とは、いわゆる「証人」のことで、当事者が証言するのが「当事者尋問」、当事者以外の第三者が証言するのが「証人尋問」とされています。

書証では証明できないような、「言った、言わない」の争いや、現場での当事者のやり取りなどの、過去に経験した事実を供述して、証拠とします。

 

裁判上、証拠は非常に重要なウエイトを占めます。なぜなら、裁判は、証拠を使って裁判官に「言い分はもっともだ」と認定してもらう手続とも言いえるからです。また、書証のほうが証拠認定力は強いと思われますし、その書証に当事者の署名や捺印があった場合は、民事訴訟法228条の関連で、非常に強力な証拠とされます。一般的に、「書面に一筆書いておくべきだ」といわれるゆえんであり、日頃から注意すべき点です。

 

以上概観しましたが、訴えの提起には、当事者の責任で行わなければならない点が多くあります。簡易裁判所では、手続の簡便化が図られ、当事者に対する手続の教示がされますが、基本的には裁判所は中立でなければなりません。そのため、一般の方には裁判に二の足を踏むケースも多くありますが、弁護士や司法書士などの専門家を積極的に活用し、正当な権利を実現するべく裁判所を有効に活用してください。

 



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