街の法律家、司法書士

日本には様々な法律家や法律実務家がいます。その中で司法書士は、街の法律家とよばれることがあります。どうして、このように呼ばれるのでしょうか?

このページでは、司法書士の歴史的生い立ちや業務、市民生活とのかかわりから、街の法律家と言われる理由を見ていきたいと思います。

 

歴史的背景

よく、司法書士は弁護士とどう違うのか?と聞かれることがあります。歴史的にみると、明治時代に遡ります。富国強兵を急いだ明治政府は、法律分野での近代化を急務としていました。その中で、法律を実際に運用する法律家の養成もあわせて急がれました。その中で明治政府は、判事(裁判官)・検事(検察官)を養成したのです。一方、文字の読み書きもままならない当時の一般市民にとって、裁判所や検察庁に提出する書類の作成は困難を伴い、裁判や法律サービスは受けにくいものでした。そこで、明治政府は市民の為の法律家として、明治5年に証書人・代書人・代言人の制度を定めました。その中の代書人が現在の司法書士に発展し、代言人が弁護士に発展しました。

市民自ら行う裁判活動を書類作成業務で支援する代書人と、市民の代理人として直接裁判活動を行うものが代言人と、現在の司法書士と弁護士と言った資格名よりも、ある意味で分かりやすい名称でありました。

その後、土地や建物の所有者(納税義務者)を明らかにする為、裁判所で不動産の登記を行うこととなり、裁判所に提出する書類作成を業務としていた司法書士が登記申請業務を担うことになったのです。

このように、当初は裁判所提出書類を作成することから司法書士の業務はスタートしたのですが、不動産取引の活発化や登記業務の法務局(登記所)への移行に伴い、司法書士の主たる業務は登記業務になっていきました。しかし、裁判所提出書類作成業務も、継続して行われました。

 

裁判活動上の理由

日本では、裁判を行う場合に、弁護士は必要的ではなく、本人自ら裁判活動を行うことができ、ある意味で市民に裁判権が保証されているともいえます。しかし、裁判を市民自ら行う場合には、深い法律知識が必要であり、市民単独で裁判を行う事は困難でありました。また、絶対的な弁護士人口の不足から、弁護士に相談することも困難でありました。その際に、市民本人の法律的主張や判断を元に、司法書士が訴状や答弁書といった裁判所提出書類を作成してきました。

 

弁護士が行う裁判活動は、市民の話をもとに弁護士が法律判断を行い、弁護士が裁判業務を行います。これに対し、司法書士が行う裁判活動は、市民の話から、司法書士が裁判手続の説明をし、その説明を参考に、市民の判断により裁判手続き上の書類を司法書士が作成し、市民が裁判を行うというものです。

以上のように、弁護士は市民から裁判活動のすべてを任せられるのに対して、司法書士は裁判活動の一部である書類作成に限定して任されてきました。そのため、一般的に弁護士は費用が高く、司法書士は費用が安いと言われ、市民にとって身近な存在であったといわれます。

 

また、司法書士は市民の判断を元に裁判活動支援を行うため、市民に理解できるように法律の説明を行わなければなりませんでした、その点も市民に身近であるといわれる理由の一つであると思われます。(平成15年からは、簡易裁判所における訴額140万円までの民事訴訟に関し、司法書士も弁護士と同様の訴訟代理人活動が行えるようになりました。)

 

地域的背景(登記業務との関連)

弁護士は全国で約1万9500名に対し、司法書士は約1万7600名と、数の上では弁護士の数が司法書士の数を上回っているにもかかわらず、各地域には司法書士が存在します。弁護士は大都市に偏在する傾向があるのに対して、司法書士は現在では登記の専門家としての側面から、各登記所所在地を中心にして各地域に存在することとなりました。実際にタウンページなどで、市町村ごとの弁護士と司法書士を見比べると、はっきりと見て取れます。

 

このように登記申請上の理由とはいえ、各地域に存在する司法書士が、裁判活動も行ってきたという点から、市民に身近な存在であったと思われます。

また、知り合いが不動産を持っているとか、会社経営を行っている、という方も多くいらっしゃると思いますが、それらの登記業務で司法書士がお手伝いした場合など、容易に紹介が可能であった点も市民に身近といえます。

 

町医者のごとく

以上のように、司法書士は、@裁判活動を市民とともに行い A各地域に存在し B登記業務を通じて市民と深いかかわりのある 法律実務家です。また、平成15年からは簡易裁判所管轄に限ってですが、代理人として裁判活動を行うことができるようになりました。

しかし、司法書士の裁判活動については、限界があるのも事実です。それは、@本人訴訟が困難な市民に対しては、代理人としての裁判活動に限界があり、弁護士の方がふさわしい場合がある。A長年にわたり、登記業務偏重傾向があったため、すべての司法書士が裁判業務について明るいというわけではない。などが挙げられます。

 

以上の点から、司法書士は登記業務・裁判業務を中心として、地域法務に積極的にかかわりをもち、弁護士をはじめとした各法律専門家と連携をとり、市民のよき相談相手であることが、街の法律家としての役割であると思われます。あたかも、町の開業医のように地域社会に貢献することが、司法書士の役割であると考えます。

 



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